人は誕生から死ぬまで食べ続け、栄養を摂取し続けます。食べることは生きることそのものと言えます。食事にまつわる環境の変化が激しい今、「食育」が注目されていることも頷けます。特に乳幼児期は、食習慣の基盤作りと心身の発達において大切な時期ですから、「食育」に気をつけたいですね。今回は、そもそも「食育」って何?というところから、ライフステージごとの「食」のポイントまで、基礎的な知識をみていきます。
「食育」って何?
子どもたちが食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身につけるために重要な活動が食育です。
「食育」という言葉は1896年に誕生しました。明治時代の医師・薬剤師の石塚左玄が使い始めたとされています。食養医学の祖とされる石塚左玄は、「体育も智育も才育も、すべて食育にあると認識すべき」と説き、食べることの重要性を「食育」という言葉で提唱し、今に伝えられています。
最近では、2005年の「食育基本法」の制定以来、学校や企業、家庭において、特に食育に関する興味関心が高まっています。
「食育」の定義
「食育」について、「食育基本法」の前文にて以下のように明記されています。
食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けるとともに、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている。
子どもたちに対する食育は、心身の成長及び人格の形成に大きな影響を及ぼし、生涯にわたって健全な身体を培い豊かな人間性をはぐくんでいく基礎となるものである。
農林水産省「食育基本法(平成27年改正)」
食育は、すべての人が健康で心豊かな生活を送るための基盤を作る上で重要と位置付けられています。また、最近の食生活の乱れ、幼少期からの肥満傾向など、食事による悪影響がもたらす健康問題の深刻化という視点からも、「食育」は「医食同源」の根本的な考え方にも通じるようです。
「食育」の目的
成長期の子どもにとって、特に重要な「食育」。子どもたちが心身ともに健康な生活基盤を作り、生きる力を身につけるために「食育」には3つの目的があります。
健康な体を育てるため
一つ目の目的は、人として健康に食べる力を身につけることです。人は、健康体があってこそ充実した生活を送ることができます。
成長・発達が著しい子どもたちは、豊富でバランスのとれた栄養補給が欠かせません。子どもが食べそうな物や作りやすいものをただ何となく与えるのではなく、栄養学に基づいた摂取が大切です。幼児期に偏りのある食事を続けるのは避けましょう。栄養不足は、病気や発育障害を招く恐れがあります。
今、社会の変化は激しく、予測不能な面もたくさんあります。このような時代をよりよく生きるためには、変化に対応できるたくましい心と体を作ることが必要です。幼児期から、健康に食べ「生きる力」のベースを作ってあげたいですね。
豊かな心を育てるため
二つ目の目的は、楽しい食事を通して豊かな心を育てることです。食事には身体だけでなく心を育てる役割もあります。食事は生活の軸であり、(本来は)楽しい時間です。幼児期に楽しく食べる体験をすることは、精神発達にも良い影響を与え食生活の向上にもつながります。
家族や友達などと一緒に食事をとることで、食べる楽しさ、食欲、食文化やマナーを学ぶこともできます。今、孤食(独りで食事をとること)が増え問題視されています。忙しい現代社会ですが、家族で食卓を囲む時間をできるだけ確保し、子どもの食生活の向上を目指したいですね。朝などの忙しい時間帯でどうしてもゆっくり食卓を囲めない場合は、「いただきます」からの10分だけでも一緒に座って、楽しい食事の時間を共有してあげることがおすすめです。できるところから実践してみましょう。
食べ物を大切にする気持ちを育てるため
三つ目の目的は、食べ物を大切にする気持ちを育て環境と共生する基盤を作ることです。
日本の食料自給率は約40%、食品ロス(本来食べられるのに捨てられてしまう食品)は全国で1年間に約612万トン、1人当たりの食品ロスは1年で約47kgだそうです(2017年度推計値)。これは、日本国民一人一人が、茶碗一杯分のご飯を毎日捨てているのと同じ量になります。資源に限りがある中、環境に大きな負荷をかけていることは言うまでもありません。
これからの時代を生き抜くためには、環境を考えて食べる力を育て、環境と共生する意識を持つことが必要です。幼児のうちから食べ物を大切にする気持ちを育てていきたいですね。
ライフステージごとの「食」のポイント
人の一生は、年齢にともなって変化する生活の段階があります。それをライフステージと呼びます。段階の分け方には様々ありますが、今回は以下の7つの段階に分けて、各段階の特徴と食のポイントをまとめました。
妊娠期・授乳期
特徴
お母さんの健康と赤ちゃんの成長にとって大切な時期。
母体の健康維持だけでなく、胎児の発育や分娩、乳児の発育において極めて重要。
ポイント
・胎児の健康と安全な分娩のために、夫婦で妊娠中の食生活を見直す
・妊娠期の望ましい体重増加量を理解し、適正体重を守る
・鉄、カルシウム、葉酸を摂る
・タバコとアルコールの害から胎児を守る
・適切なエネルギー量を加算する(妊娠期…50~450kcal、授乳期…350kcal)
乳幼児期(0~5歳)
特徴
人生で発育・発達が最も著しい時期。
体、味覚、咀しゃく機能、嗜好、食習慣の基礎ができる。
ポイント
・食習慣をはじめとする、正しい基本的生活習慣(食事、運動、睡眠、排泄、衛生など)を身につける
・朝・昼・夕の3食と間食(おやつ)で栄養を補う
・発達段階に合った食材と調理法を心掛ける
・様々な食材に出会う体験を重ねる
・家族で1日3食、規則正しい食習慣を心掛ける
・食事をする楽しさを十分に体験する
・よく噛んで食べる
・挨拶、準備や後片付けなど基本的な食事のマナーを身につける
学童期(6~11歳)
特徴
心身の発達が著しい時期。
食への関心が深まり生活習慣の基礎が定着する。乳歯が永久歯に生え変わる。体の発達速度がピークになる。
ポイント
・1日3食、規則正しい食習慣を身につける
・発達段階に合った栄養素と量を摂る
・咀嚼力を高める
・家族や友達と楽しく食事する体験を重ねる
・食事の大切さ、栄養や体について学ぶ
・基本的な食事のマナーを習慣づける
・ダイエット、過食、欠食などに注意し、生活習慣病予備軍にならないように気をつける
・食に関する活動(準備、片付け、調理など)を行い、食への感謝と役割を学ぶ
・郷土の味を経験し、地元の食文化に親しむ
思春期(12~19歳)
特徴
心身の変化が著しく、親からの自立心が高まる時期。
性差や個人差が大きい。食事量が最も増える。ダイエットによる栄養不足、欠食、過食などの障害が起こりやすい。
ポイント
・1日3食、規則正しい食習慣を身につける
・自分の適正体重やBMI、栄養素や必要量を理解し、自分に合った正しい選択で食べる
・食の大切さを認識し、必要な情報を収集し実践できる力を身につける
・糖質、脂質の摂り過ぎに注意する
・野菜、良質のたんぱく質、カルシウムを十分に摂る
・コンビニやファーストフードなどの利用による栄養不足を家庭でしっかり補う
・食に関わる体験活動(農作業体験など)に積極的に参加する
青年期(20~39歳)
特徴
生活や環境が大きく変化する時期。
ストレスや喫煙から栄養バランスが崩れやすい。不規則な食事時間、欠食などによる食生活の乱れが起きやすい。
ポイント
・1日3食で、栄養バランスのよい食事を目指す
・生活の状況に合わせた栄養摂取を行う
・外食が多くなる場合は、野菜や良質のたんぱく質をしっかり補う
・子どもへの食育について重要な役割を担うことを認識し、正しい食習慣を実践して見せる
・子どもの孤食、欠食を避け、家族で楽しい食事を摂るように心掛ける
・喫煙、アルコール摂取の仕方に気をつける
・定期的に健診を受け、生活習慣病の予防を心掛ける
壮年期(40~64歳)
特徴
社会や家庭において重要な役割を担う時期。
人生が充実する一方で、ストレスや運動不足から栄養バランスを崩し、生活習慣病や肥満が起きやすい。
ポイント
・1日3食で、栄養バランスのよい食事を目指す
・生活の状況に合わせた栄養摂取を行う
・外食が多くなる場合は、野菜や良質のたんぱく質をしっかり補う
・定期的に健診やがん検診を受け、適正体重を保ちつつ健康維持に気を配る
・脂質、塩分の摂り過ぎに注意し、生活習慣病の予防・改善に努める
・ビタミン、ミネラルの多い野菜を十分に摂る
・喫煙、アルコール摂取の仕方に気をつける
高齢期(65歳~)
特徴
加齢にともなう身体の変化が生じやすい時期。
基礎代謝の減少し、体力が低下する。単身世帯が増え、孤食や栄養バランスの偏りが見られる。運動不足になりがちで肥満を招きやすい。
ポイント
・1日3食を規則正しく食べ、必要な栄養素を摂る
・魚、肉、卵、大豆製品、野菜など高齢期に必要な食事を十分に摂る
・老化防止および健康維持のため、カルシウムと良質のたんぱく質は積極的に摂る
・家族や仲間と一緒に、食を楽しむ時間を多くもつようにする
・塩分の摂り過ぎに注意する
・水分補給を意識的にしっかりと行う
・定期的に健診やがん検診を受けるなど健康管理を行い、健康寿命の延伸を図る
最後に
核家族化傾向、子ども時代からの生活習慣病、多様化する生活スタイルなど、現代は食習慣が乱れやすい要因が蔓延しています。だからこそ、どの世代でも「食育」が大切なのですね。
ライフステージに沿った食事が大切であると同時に、すべてのステージに共通するポイントは「1日3食、栄養バランスを考えて食べること」。特に子ども時代の食習慣は重要で、その子が大人になった時の健康に大きく影響します。周囲の大人が率先してお手本を示し、規則正しく栄養バランスのとれた食事を心掛けたいですね。
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